製品誕生秘話

繁栄と停滞、そして変化。

     創業時 初受注記録

1983年。当社は実験支援の機器・消耗品を扱う商社としてスタートした。90年代には、消耗品の単体販売だけではなく周辺製品の提案も交えた、実験支援のコンサルティング的な役割を担うまでに成長。さらには装置製造にかかわる半導体部品の供給に着手し、これに成功した。順調に進んでいるよう見えたが、ここで起こったのがITバブルの崩壊。過去最高の売上を出した翌年に、売上は一気に半分にまで落ち込んだ。更にそこに追い打ちをかけたのが企業のISO承認の流れ。ISO認定基準の中にある「購買プロセスの評価」により、いかに安く提案しているかが、企業の発注先選定の基準として大きな割合を占めるようになったのだ。このままでは、価格競争に巻き込まれ、いずれは企業として衰退してしまう。そう感じていたのは、後に現代表となる、当時、営業部長であった木下だった。


 

きっかけは根拠のない「やります」の一言。

そこからは苦しい時代が続く。極端なことを言えば、売れるものはなんでも売った。顧客から「使いやすいペンチが欲しい」と言われれば、ペンチをやすりで研ぎ扱いやすい形にカスタマイズして販売した。こういった細かい要望に大手メーカーは応えない。メーカーとしての出発のきっかけとなったのも、そんな流れからだった。営業活動で訪問した大手製薬会社の研究員から「容器にふたをしたまま、容器の中にある物質の分注作業がしたい。」との要望をもらったのだ。彼の研究は薬品の安全性を確かめるためのもの。物質の取り出しの際に、蓋の開け閉めを行うことでわずかに起こる物質の揮発を防ぎたかったのだ。当時それを実現できる製品は世の中にはなく、また、一部の研究分野のために新製品を開発する大手メーカーもなかった。彼の要望をどの商社も断っている状況だったのだ。その無理とも思える要望に「やります」と応えた。実現までの道筋は明確ではなかったが、これが実現できることで世の中にもっといい研究成果を還元できる、というビジョンは描けていた。研究員から理想の製品イメージをヒアリングし、加工を行ってくれそうな会社を見つけた。半導体部品の供給で培った多くの加工会社との関係性が役に立った。しかし、実際にモノになるまでも決して簡単ではなかった。研究員のイメージを加工会社の技術者に伝えると「そんなんじゃわからない!もっときちんと聞いてこい!」と何度も??られた。世の中にないものを誰かと協力して生み出す難しさを痛感した。やっとの思いで製品化にこぎつけ、特許取得も叶った。「プレートシール」が誕生したのだ。そして研究員の喜ぶ姿をみて、「これは、いける!」と思った。

メーカーとしての船出。

2004年にプレートシールを製品化し、同様の流れで2007年には現在の「コンビニ・エバポ」シーリーズの原型となる「濃縮栓」を、2011年には「ionRocket」を特許出願、製品化した。そんな矢先、リーマンショックが起こる。この出来事をきっかけに木下はメーカーへの舵取りを本格的にすすめることを決意した。価格競争に巻き込まれない、高い付加価値をもったオンリーワンの製品を世の中に生み出していこうと。そして2013年、当社のアイコン的存在となる「コンビニ・エバポ」シリーズが誕生した。もともと販売をしていた濃縮栓を使った「Single Flex」は特許を取得した濃縮原理を具現化しただけのシンプルな製品。そのため、低価格ではあったが、販売ルートに乗せることに苦労した。メーカーとしてのブランド力が備わっていなかったのだ。営業の渡辺が全国を駆け回り地道に販売をしていたが、それに加えて代理店制度を導入。代理店を通じて商品の魅力を伝えつつ、より多くの研究者の声を効率的に集めていった。そこから見えてきたのは、研究員に女性が多いという事実。研究所という地味な配色の環境の中で、女性研究員は何時間も仕事に没頭する。ここから装置のデザインを変えるというアイディアが生まれてきた。機能だけに焦点がおかれがちの研究機器に「職場を快適にする」というコンセプトを付加したのだ。ネーミングにもこだわった。すでに製品を購入してくれていた顧客にアンケートをとり、その結果を並べて見えてきたのが「手軽」「身近」「便利」といったキーワード。連想されたのは生活のなかで欠かせない存在となっているコンビニエンスストアだった。こうして「コンビニ・エバポシリーズ」は生まれた。それまでの研究機器には無かった優しい色合いを4色展開でラインアップ。「選ぶ」とう行為を製品購入時に加えることで愛着を持ってもらうこともできた。コンビニ・エバポは現在、世界中で1000件以上の研究機関に導入されているのみならず、発明大賞や文部科学大臣表彰をはじめとるす各賞を受賞する等、当社のアイコン的存在となってくれた。

舞台は世界。新しい市場を生み出す存在を目指す。

これは、製品開発のほんの一部でしかない。産業ピラミッドのトップともいえる「研究開発」という分野を扱っているからこそ、そこに向けた製品やサービスのアイディアは無限大ともいえる。事業として成功しているビジョンが描けるアイディアであれば実現に向けて動いてみる、というスタンスで臨んできたが、そこには苦労の方が多く待っていたし、困難に出くわしたその時々で考え、行動し、乗り超えてきた。世の中にないものを生み出すためには、「あれがない」「これがない」と言っていては前に進まないのだ。当社の製品を真似する企業が出てきたとき、成功した、といえると思う。それは世の中にない価値を提供し、新しい市場を生み出したということになるからだ。